2024年08月30日

「空帰月夜魂」、王昭君と杜甫、基本の課題について

「空帰月夜魂」、王昭君と杜甫、基本の課題について




こんにちは、あるいはこんばんは。

信州塩尻市・欅の森書道会、Web担当の宗風です。
お馴染みさまでございます。
本日も短い間ではございますが、お付き合いを願っておきます。

今回の【基本】の課題にある5字「空帰月夜魂」、
「空しく帰る月夜の魂」と競書誌に書き下し文が掲載されておりますね。

お盆かな?

…と思う訳です。競書誌「書象」の2024年9月号に掲載されている…全体の締め切りは9月20日、
発売は8月15日ですから、ええ、要するにお盆中を含む訳でございまして、
魂の帰還及び再びのご送迎がお盆ですからね、
“空しく”…とは、魂がではなく、残る私達でしょうか。
その様に思ったりなんぞすると風流で、夜の涼風をちょっと想像したりなんぞもして。

…この詩、そう言う部分がない訳じゃありませんが、
もうちょっと…ええ、何と申しましょう、
ストーリー性に富んでいるとしましょうか、
映画にもなっていたりする、そんな逸話のある人物を詠った詩でございます。

本日のブログは、これを解説致します。
次回、欅の森書道会は9月9日を予定しております。
それまでの話題のタネになったりすれば幸い、
作品への思いが増して、
良い仕上がりの一助になれば至上の喜びでございます。

さぁ、噺の幕開きと行きますが…。




いちばん有名と言えば「楊貴妃」ですね。
伝説の美女。中国史に残る「イイオンナ」ってヤツです。
…ヤツとは失礼か。お詫び致します。

何でも世の中ってぇのは、象徴の数を数えがちでございましてな。
「楊貴妃」については「中国四大美女」なんぞ申しますなァ。
時代時代に傾国あり。
何となく豪奢できらびやかな世界のみを考えてしまいますが、
どの美女殿も良い亡くなり方をしていませんね。
ちょうど現代、漫画で「薬屋のひとりごと」と言う
中国後宮(江戸時代で言う大奥のこと)を舞台にした作品がありまして、
これを見る限り、毒殺暗殺が往々にしてある様で。

中国の四大美女と言えば、
「西施」、「王昭君」、「貂蝉」、「楊貴妃」であり、
今回の句は、
杜甫の七言律詩「詠懷古跡」其三にあるものです。
これは「王昭君」について詠ったものです。

王昭君は、紀元前51年から紀元前15年まで。
杜甫は712年から770年まで生きていますので、
おおよそ1000年の差がありますね。
「王昭君」については、
他に李白や白居易にも詠まれています。

「詠懐古跡・其三」にある、

「環佩空帰月夜魂」に今回の課題があります。

「環佩」は「カンパイ」と読み、女性の装身具を言います。
腰に下げる佩玉(はいぎょく)。 帯玉のこと。

「環佩、空しく帰る月夜の魂」

これを踏まえて全文を読んでみたいと存じます。





「詠懐古跡」其三 杜甫

郡山万壑赴荊門
生長明妃尚有村

一去紫台連朔漠
独留青塚向黄昏

画図省識春風面
環佩空帰月夜魂

千載琵琶作胡語
分明怨恨曲中論

以上が本文です。
書き下し文は以下の通り。

郡山万壑、荊門に赴く、
明妃、生長して尚(なお)村有り。

一(ひと)たび、紫台を去れば、朔漠連る、
独(ひと)り青塚を留めて、黄昏に向かう。

画図に省て識らるる春風の面、
環佩、空しく帰る、月夜の魂。

千載、琵琶は胡語を作りて、
分明に怨恨を曲中に論ず。


以上となります。


山々谷々は荊門に向かって行く。
王昭君が育った村が今も尚有る。

1度、王宮を去ればその先には何もない(砂漠の様に)、
残るのはただひとつ墓があるだけで、夕暮れの中に佇んでいる。

(実際に会わないうちに)絵によって知られた王昭君の美しさ。
彼女の魂だけが空しく、環佩を揺らして故郷に帰って来た。

千年経つ今日まで、異民族が奏でる琵琶の歌の中、
王昭君の怨恨が残り、語られている。

…と言う意味になりますでしょうか。
「胡語」また「胡人」と言うとペルシャ人のこと、
異民族とはそうした外界を指すようです。

また「絵によって知られた」とは、どう言うことか。

後宮での帝の選び方…だそうです。
女性を集めてはいて、遊郭の様に顔を見て…なんて言うカタチではなく、
似顔絵を絵師に書かせて、その絵によって帝は相手を選んだと言う。
世が世ですから、
帝の子を身ごもったとなれば大出世でして、
どうしても取り入りたいと言った思惑があれば、
絵師にお金を積んで「我が子を美女に描いてくれ」…そして、
「あの綺麗な子を不細工に描いてくれ」とお願いする訳で。

そうして不細工に仕上げられた絵においても、
王昭君の美貌は露になった…帝に選ばれたんだ…と言う逸話に寄ります。
シンデレラストーリーと言えばそうなんですけれど、
空しく故郷に帰るとある通りで、
もしかすると田舎でのんびり過ごした方が良かったのかも知れないとは、
どうにも分からない世界、いわゆる「if」の先のお話ですね。

…と、そんなところで本日はここまで。

次回、欅の森書道会の研修日、9月9日は月初となりますので、
お月謝をお持ちくださいませ。
そしてまた、大谷表具店さんがご来訪下さいますので、
欅の森書道展への作品が仕上がった場合には、
是非、表装額装のお話をする…なんてところ、
合わせて競書の〆切り日でもあります。
色々と重なりますが、励んで参りましょう。

それでは、また次回。

ありがとうございました。

ありがとうございました。


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Posted by 欅の森書道会 at 07:19│Comments(0)言葉の解説
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